症例作成について
前回の記事で単位取得について解説を行ってきました。次は外来がん治療認定薬剤師の取得を目指す上で最も重要と言っても過言ではない介入症例(10例)について、記載を行っていきます。もう一度言うと最も重要なので、少し長々とした記事になってしまっていますので、ご了承下さい。
ちなみに2019年度から症例審査と筆記試験の結果を総合しての審査方法に変更となっています。また、この審査だけでも50%以上の受験者が不合格となっていますので、しっかりとした対策が必要です。
★筆記試験については、以下のページで必須問題集の公開も含めて解説しています★
さぁ!それでは、症例審査について解説していきましょう!!
まず、最初にしなければならないのは介入が必要そうな患者さんの選定です。この項では、患者さんの選定からがん治療に薬剤師が切り込んでいくための情報、介入症例の記載における注意点までを説明していこうと思います。
(介入なんて普段からやりまくってるわよ!って方はここの項はスルーして頂いてOKです)。
選定方法① 薬歴・レジメン歴から介入症例を選定する
と思われる先生方用の方法です。
自分の施設の直近の薬歴でもレジメン歴でも結構ですので、まず抗がん剤、分子標的薬、免疫チェックポイント阻害薬など(もちろん経口・注射問わず)をざっと確認してみて下さい。薬局・病院の取りそろえている薬剤・レジメンでOKです。その中から、カペシタビン(SE:手足症候群 3~4コース目以降で発現が増えてくる)、レンバチニブ(SE:投与2週目以降で血圧が急激に上昇してくる、検査値で甲状腺機能障害が認められる)、アビラテロン(空腹時に服用できているか?プレドニゾロンもしっかり併用できているか?どちらかというと内服アドヒアランスの問題など)、FOLFIRI(SE:検査値で好中球が500/μL以下の記録がある)等々、どんな薬・レジメンでも結構ですのでよく知られている、もしくは高頻度に発現する副作用、内服方法におけるアドヒアランスの問題などを思い浮かべながら、患者さんの経過を想像してみて下さい。そこから、副作用が予想される患者さんが選定できたら、その患者さんが次に自分の施設(薬局・病院)を訪れる日付・予約等を薬歴(処方日数)や予約票から確認し、それまでに自分であれば、予想される副作用に対して自分はどのような対応を考えるか?適正使用ガイドなどを参照しながらシミュレーションしてみましょう。ここまでできてしまえば後は待つだけです!(もちろん副作用等の問題もなく、空振る可能性も十分にあります)また、自分の介入症例が複数になってくると、来局来院のスケジュール管理まで必要になってきますので、Excelなどを用いて介入患者一覧を一つのテーブル(表)などにまとめておくことをお勧めします。
一旦、整理すると・・・
①薬歴などから副作用や内服アドヒアランスが問題となる患者を選定する
②予想される問題点を再度シミュレーションし、適正使用ガイドなど参照しながら対応を考える。
③次に自施設(薬局・病院)を患者が訪れる日付を処方日数、予約票等から確認。
自分が選定した患者さんが自施設を訪れたら、シミュレーションした問題点について、患者さんに問いかけてみましょう!そして、医師に積極的に意見を述べていきましょう!
・主治医に対して嘔気が強かった等に対して制吐剤を提案・追加する。
・生活上、朝食2時間後の空腹時投与は難しい。
→主治医に就寝前の空腹時に用法の変更を提案する。
・患者さんもしくはカルテから検査値を確認し、甲状腺機能評価を行う。
→甲状腺機能低下(TSHの上昇、FT4の低下、倦怠感等の臨床症状)の所見がある。
→主治医にレボチロキシン錠が必要かどうか相談する。
等々・・・一つ一つは簡単な内容ですが、患者さんにとっては大事な薬剤師の介入になってきます。もちろん、既に医療施設で医師・看護師がその所見をしっかりフォローしていれば、全く問題はありません。シミュレーションした問題点が既に対応済みであれば、その患者さんの更なる未来に予想される問題点に焦点を変えて、次回の介入に備える、もしくは別の症例を探すなど、計画を変更しましょう。ここまで考えるだけでも初めて介入を行っていく薬剤師の先生方であれば、かなり負担に感じるかもしれません。
っと不安になってしまう薬剤師の先生方も多くいらっしゃると思います。(私も最初はそうでしたので・・・)しかし、積極的に主治医に対して薬剤師が意見、相談を持ちかけていくことは、最終的には患者さんの利益に繋がってきます。薬局であれば、疑義照会同様にFAX票に記載して意見を送信する(そもそも疑義照会と介入の区別も曖昧ですよね!必要な介入なのであれば、多少不安でも送ってしまいましょう!医師も良い意見であれば採択するし、不要であればちゃんと却下してくれます!)、病院であれば外来の切れ目で医師に直接相談する等でアプローチ可能です。看護師の方々も外来治療においては積極的に主治医にもの申している風景を普段見かけることが多いですが、薬剤師も別視点(薬学的観点)から意見は述べていけるはずです!(看護師さんは気が強いから・・・とか思わず、薬剤師も気を強くもっていきましょう!)治療方針・処方の決定権は医師にしか決定できず、その分、医師は全ての治療の責任を背負っています。残念ながら薬剤師は治療における責任を負うことはできない立場ですが、だからこそ、積極的に患者さんの治療利益に対して医師に意見していくことで、介入が成り立っていくと考えます。
選定方法② 化学療法を開始した新規患者から介入症例を選定する
2つめの患者さんの選定方法です。これに当たれば、介入はしやすいかもしれませんね。患者さんが初めて薬を投薬される場に、自分も立ち会うことになります。処方された薬剤、レジメン等が正しく処方されているのか?(カペシタビンやレゴラフェニブのような手足症候群のリスクが高い薬剤が処方されているが、手足症候群予防のための保湿外用剤などがちゃんと処方されているか?抗がん剤治療における制吐剤の設定は正しいか?等々・・・)最初から携わることができます。さらには、投薬前後の状態を把握できるということになります。その後の患者さんが自施設(薬局・病院)を訪れる度に、その状況と変化を知ることができますので、より介入が行いやすくなるでしょう。
選定方法③ 問題を生じた患者から介入症例を選定する
3つめの患者さんの選定方法です。当たり前ですが、これが一番確実に介入することができます。なんと言っても、自分の目の前に薬剤師の介入を要する問題点が存在する状態です。選定方法①、②と異なり、まずシミュレーションが空振りすることがないでしょう!
偶然、経口抗がん剤や経口分子標的薬の処方箋をもってきた患者さんの投薬を自分がすることになり、嘔気や皮膚障害等の問題で悩んでいるが、医療機関ではフォローされていないのであれば(制吐剤や外用剤の処方歴がないなど・・・)、「今こそ、あなたが介入するタイミングです!」ただし、闇雲にトライするのではなく、しっかりと根拠(適正使用ガイド、ガイドライン等)を示した上で、介入を行っていきましょう!
がん治療に薬剤師が切り込んでいくための情報
患者さんが副作用で困っている時、副作用を考えるのであれば、別の薬剤が選択できるのではないか?使える支持療法薬(例えば嘔気に対しての制吐剤、血圧上昇に対する降圧剤等々・・)はないか?など、薬剤師は副作用の専門家でもありますので、この対応ができるようになる必要があります。
と思われる先生方も多いかと思います。しかし、多くは適正使用ガイド、添付文書、各がん種のガイドライン、制吐療法診療ガイドラインなど、あらゆるところにヒントと答えがちりばめられています(全てが当てはまるとは限りませんが・・・)。私達、薬剤師はここから根拠ある情報を収集し、患者に伝える、医師に照会が必要であれば介入を行っていく必要があります。
つまり、介入を行っていくには、これらの適正使用ガイドや添付文書、各ガイドラインなどを熟知しておく必要があるということです。そして、この根拠ある情報を盾にして、患者・医師に切り込んでいくことができるでしょう。実際の介入症例の作成においても、自分の介入一つ一つに、そう行動した根拠を示していく必要がありますので、ぜひこれらの情報は抑えておいて下さいね。(全てを熟読せよってことではなく、その治療上で薬剤師が使用する部分だけでOKですよ!もちろん全て読破できることに越したことはありませんが・・・)
介入症例の記載における注意点
ここまでで、患者の選定方法、がん治療に薬剤師が切り込んでいくための根拠ある情報について、解説を行ってきました。最後に、これらを実施、理解した上で、実際に介入症例をの文章を作成していきます。その際の注意点について解説していきます。
①つめの注意点としては、必ず、介入を要する問題点、その介入による結果を明確に記載することです。なぜそのように行動したのか?その結果どうなったのか?ただ処方提案したや患者に説明しただけでは不適切な症例となってしまいますのでご注意下さいね。
②つめは可能な限り、根拠のある情報をもとに介入して下さい。根拠のある情報は前項で解説した通りです。安易に自施設のオリジナルルールや個人の感覚での介入、かなり独創的な介入(市販のサプリメントを勧める、医師のマイルールに則るなど)は不適切と判断される可能性があります。あまり、ユニークな介入症例ではなく、よくありふれた、根拠のある対応・介入ができる症例(嘔気→制吐剤、手足症候群→外用剤)などでトライすることが望ましいですね。また、副作用等についてはCTCAEを用いて、しっかりGrade評価(Grade1~4)を行って行きましょう。
③つめは必ず症例の中で医師を一回は登場させて下さい。処方の追加や変更の決定権は医師にあります。残念ながら、薬剤師には決定権がありませんが、意見・提案することは可能です(それが薬剤師のお仕事です)。医師が一度も出てこないのであれば、独断(権限逸脱)での介入とみなされる可能性もありますので、ご注意下さい。ただし、介入のメインが薬薬連携であったり、訪問看護師との関わりであったり、多少の例外はあります。絶対に医師が登場しないといけないわけではありませんが、可能な限り医師が登場するような症例を作成するように介入を心掛けましょう。詳細についてはJASPOのHPをご覧下さい。「がん患者への薬学的介入実績の要約の書き方」に詳細と実際の介入症例(2例)が記載されています。
実際に提出した介入症例(一部抜粋)
ここまで、症例の選定から介入における注意点などまで、長々と解説してきましたが、ここでおわってしまうと、それで?っとなってしまうので実際の具体例を出したいと思います。(この症例は合格者から提供されたものを一部改編して使用しています。個人情報保護に配慮し、フィクションの設定としています。)
●介入を要する問題点:①パゾパニブ開始にあたり、本患者はラベプラゾール10mgを常用していた。②パゾパニブ開始時にはPSL5mgまで漸減されていたが、ニューモシスチス肺炎(PCP)予防としてアトバコン内用懸濁液1500mgが依然継続されており、患者より味が不快で服薬の負担であると訴えがあった。
●介入内容・結果:①主治医にラベプラゾール内服中であることを報告し、PPIは胃内の酸分泌を抑制するため、パゾパニブの溶解度が低下し、吸収率が低下する可能性があると情報提供。主治医と協議し、消化性潰瘍や逆流性食道炎の既往もなく、ラベプラゾールが中止となった。以降、胃不快感等も認めなかった。②パゾパニブ開始時、PSLは5mgまで減量され、投与終了予定であった。アトバコンの味の不快感について訴えがあり、これが患者の服薬アドヒアランスを低下させる可能性もあった。PCP予防薬の中止基準(PSLが0.4mg/kg/日以下、末梢血リンパ球数が500/μL以上)に該当するため、主治医にアトバコン中止を提案、終了となった。その後、服薬も問題なく継続でき、右副腎転移は縮小した。
この介入症例は調剤薬局薬剤師が実施したものです。介入点①は、添付文書の相互作用の項からの根拠ある情報を用いて介入を行えていますね。そして、その後の結果として消化器症状のフォローも行われています。介入点②は、患者の薬剤に対する不満を聞きだし、服薬アドヒアランスに関わる影響を考えて、根拠を示しながら介入できていると思います。
症例の記載方法は薬剤師の先生方の各個人で異なってきますが、記載様式は10例で揃えましょう。そして、必ず介入を要する問題点、介入内容とその結果を明確に記載するように心掛けましょう。本症例はあえて項目化していますが、必ず項目化する必要性はありません、他に10例の記載様式を整えられるのであれば、基本的には自由に記載可能です。また、介入を行う際には必ず根拠のある情報をもとに行ってください。これがしっかりとできれば、確実に症例審査を合格できます!
ぜひ、外来がん治療に深く踏み込んだ介入を行ってみて下さい!
介入を手助けしてくれる書籍
レジメンハンドブックなどが主流で使用されている施設なども多いと思われますが、ここではがん化学療法レジメン管理マニュアルを紹介したいと思います。既にご使用されている方も是非ご参考にして頂ければと思います。
このがん化学療法レジメン管理マニュアルは、各レジメンの解説の最後の「薬学的ケアの実践」に介入を要した事例などまで記載されており、介入を行う際のヒントを得ることができるかもしれません。もちろん、レジメンハンドブックに劣らないほどの様々な情報が盛り込まれているため、普段の日常業務でも重宝すると言えるでしょう。ただし、入院主体の介入事例なども多い印象があるため、どこまで外来に転用できるか注意しながら使用して下さいね。それでも、様々な副作用のフォローについて記載されているので、介入症例の作成を助けてくれると思います。
まとめ
最後に、ここまでに記載した内容を実行する際に必要になってくるのは、自施設(薬局・病院)のサポートです!一人で全てを実行することも可能ですが(不可能ではない)、患者さんへの介入を行うために時間、人員をさかなければなりません。可能であれば上司に相談してから実施することが望ましいでしょう。(私の所属長はどちらかというと、なぜそんな面倒なことに首を突っ込まなくちゃいけないの?という考えの人だったので、ほぼ独力で頑張りましたが・・・やっぱり誰か先輩でも同期でも後輩でも、人員的にだけでもサポートしてくれる環境があれば良かったのにな・・・と考えています)
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