免疫療法と免疫チェックポイント阻害剤について

その他

免疫療法とはどのようなもの?

本来、健常人では体内で発生しているがん細胞を免疫が異物として判別し排除しています。しかし、がん細胞が免疫にブレーキをかけることで、がん細胞を異物として排除しきれないことがあります。免疫療法は、このブレーキをはずすことにより、がん細胞を排除する治療法です。がん治療で広く行われている外科的治療、化学療法、放射線治療 に続く治療法として期待されています。

免疫療法はなぜ注目されている?

一部の癌種において、従来の化学療法と比較 してオプジーボ Ⓡ(ニボルマブ)は生存期間を延長するという結果が出ました。(図1)また、 オプジーボ Ⓡの開発に貢献したことから 2018 年10 月に京都大学特別教授の本庶佑氏がノーベル生理学・医学賞を受賞しました。しかし、オプ ジーボⓇ240mg1瓶が 410,580 円(2018.12 月時点)と薬価が非常に高額となっています。以上のような点から免疫療法が注目されています。

図 1 化学療法とオプジーボⓇの全生存期間の比較
H. Borghaei et al.N Engl J med 373;17 nejm.org October 22, 2015

免疫チェックポイント阻害剤

①がん細胞が免疫機能にブレーキをかける仕組みについて(図 2)
がん細胞は自らが増殖するために、免疫細胞(T 細胞)の働きにブレーキをかけることがわかってきました。ブレーキをかける信号は、癌細胞表面にある PD-L1 や PD-L2 というタンパク質が T 細胞表面の PD-1 と結合することにより発信されます。

図2 がん細胞が免疫機能にブレーキをかける仕組み

②免疫チェックポイント阻害剤の機序について(図 3)
免疫チェックポイント阻害剤の機序は、抗 PD-1 抗体( オプジーボ Ⓡ、キイトルーダ Ⓡ)や抗PD-L1 抗体(テ セントリク Ⓡ、イミフィンジ Ⓡ)が、がん細胞が免疫から逃れようと免疫細胞(T 細胞)にかけたブレーキを解除して、体内にもともとある免疫細胞(T 細胞)を活性させることで効果を発揮します。

図3 免疫チェックポイント阻害剤の機序

免疫関連有害事象について

  免疫チェックポイント阻害剤を使用すると免疫関連有害事象(以下、irAE:immune-related adverse event)を生じることがあります。代表的なirAEは図4に示す項目になります。irAEは各臓器にそれぞれ特異的な自己免疫メカニズムが関与している可能性があり自己免疫性と考えられています。自己免疫により甲状腺機能障害副腎の内分泌機能異常大腸炎腎機能障害肝機能障害1型糖尿病(劇症型)などが認められます。

図4 代表的な免疫関連有害事象(irAE)

内分泌障害の発症時期は投与直後から2年近くとかなり幅広いのが特徴です。(図5)また、肝機能障害では投与開始から約8~12週後に肝酵素の上昇を認めることがあります。そのため、irAEを防いだり早期に発見するために当院では表1のように①投与初回月初め投与期間中間で検査する項目を決めています。

図5 代表的な免疫関連有害事象(irAE)の発現時期例

免疫関連有害事象(irAE)に対する対策

 免疫チェックポイント阻害剤のirAE は出現時期に大きなばらつきがありますが数ヶ月後に生じることが多いとされています。そのため、免疫チェックポイント阻害剤を使用している患者さんには、治療終了後も irAE 発現のリスクがあることから、免疫チェックポイント阻害剤を使用していた旨を認知して頂き、医療機関を受診される際には「免疫チェックポイント阻害剤投与歴があります。投与中、治療終了後も自己免疫疾患様の症状出現のリスクがあります。」と必ず医療スタッフに提示して頂くことを徹底させる必要があります。

また、免疫療法(効果あり)ではすぐに治療効果があらわれることも多いのですが、場合によっては治療の開始からがん細胞への免疫の機能が高まるまでに日数がかかることがあります。シュード・プログレッション(擬性進行)と呼ばれる、免疫細胞ががん細胞を攻撃すると腫瘍部分が大きくなって(炎症反応を起こして)、その後、腫瘍が縮小する現象も確認されています。つまり、治療を開始してから数カ月後にがんが小さくなる場合(遅延効果)があります。また、一部の患者さんでは免疫療法(効果あり)を終了してからも治療効果が長く続く場合があることもわかってきました。このように、治療効果が続くことからirAEの発症時期も投与直後から治療終了の数年後になる可能性も考えられます。そのため、長期的視点でirAEが生じていないかを確認することが望ましいとされています。

表1 検査項目の一覧

参考文献:
・各添付文書
・irAE対応マニュアル(マニュアル-がん関連-化学療法室-irAE対応マニュアル)
・国立がん研究センターがん情報サービス -免疫療法-まず、知っておきたいことのページ
・Immunity-Oncolgyいちから学ぶ がんと免疫のページ
・H. Borghaei et al.N Engl J med 373;17 nejm.org October 22, 2015




その他
BOARAをフォローする

【ボアラ】
▶がん治療をメインに勉強中の薬剤師の端くれです!
▶︎ブログ・Instagram・noteではがん治療における必須問題集、がん薬学的ケアの実践ケースファイル等のコンテンツを配信中!

【取得:認定・専門資格】
外来がん治療専門薬剤師

※認定・専門・転職等はお気軽にご相談下さい。
※個人保護情報法を厳守します。架空事例を使用しております。
※投稿内容は一個人の意見であり、学会等とは全く無関係であり、
 閲覧者の不利益等については一切の責任を負いません。
 事前にご了承下さい。

BOARAをフォローする
BOARA

コメント