透析患者におけるバンコマイシン(VCM)の投与方法

感染症

バンコマイシン(VCM)について

バンコマイシン(VCM:Vancomycin)は主にMRSAやEnterococcus faeciumに対して、実臨床で汎用されているグリコペプチド系抗MRSA薬です。半減期は4~6時間とされていますが、腎機能が低下している患者、特に透析患者においては半減期がさらに延長しており、投与方法の設定には注意が必要です。

透析患者におけるバンコマイシン(VCM)の投与方法

①初回投与量と維持投与量

VCMの初回負荷投与(Loading dose)としては、20 ~ 25 mg / kg / 回 とされています。

VCMの半減期は通常、4~6時間とされていますが、透析患者や透析未導入の保存期の患者においては、VCMの半減期が40~50培程度(200~250時間)まで延長していることが知られています。そして、半減期が延長していることにより、低用量を繰り返し投与を行っても、定常状態に達するまで数日を要してしまいます。従って、透析患者や透析未導入の保存期の患者においては、特に初回負荷投与(Loading dose)を行うことが重要です。

また、維持投与量(HD後にのみ投与)は 7.5 ~ 10 mg / kg となっています。(維持投与は透析日のみに投与します。透析がない日に投与は行いません。

繰り返しになりますが、VCMの投与するタイミングは透析になります。

②採血のタイミング

TDMにおける採血は、原則、透析に行います。これはリバウンド現象(血液透析などにより急激な基質の血中濃度の低下に伴い、浸透圧により組織中から血中に基質が急速に移動する現象)を考慮したためです。

HD患者における抗菌薬の最低血中濃度はHD直後ですが、HD施行中は非HD時に比べ短時間の急速なの血中濃度の低下が認められるため、抗菌薬治療期間中における全体のPKを評価する上で、HD前の採血が臨床的意義が高いとされています。また、HD後での評価はリバウンド現象により組織濃度と血漿濃度が平衡に達したタイミングでの採血が必要となり、臨床では実施困難です。

繰り返しになりますが、VCMの血中濃度測定における採血のタイミングは透析になります。

参照:抗菌薬TDMガイドライン バンコマイシンの項 P24~25、P.39~62

バンコマイシン(VCM)のランダムトラフ法

ここまでで投与方法の概要をお伝えしてきましたが、では実際にどのように投与を行っていけばよいのかをご説明します。論文や施設、主治医や薬剤師の意向に沿っていくつか投与方法がありますが、本記事ではランダムトラフ法、及びその簡易法をご説明したいと思います。使い分けとしては、透析患者にVCMを導入時にはランダムトラフ法を用いて、状態が安定し、定常状態を維持できるタイミングになれば簡易法に切り替えると言った使用になるかと思います。

①ランダムトラフ法

アトランダムにVCMの血中濃度測定を行ない、目標濃度を下回ったらVCMを投与するという方法になります。この方法では頻回採血が必要となりますが、実測値に基づくため確実性と安全性の高い方法と言えるでしょう。具体的には、以下のように行います。

透析に採血を行う(通常は週3回、透析日に行う)。VCMの血中濃度(トラフ値)を測定、確認し・・・
→トラフ値:15μg/mL以下であれば、透析7.5~10mg/kg/回の投与を行う。
→トラフ値:15μg/mL以上であれば、投与なし

これを唯々、透析毎に繰り返していくだけの単純作業になります。前述しておりますが、難点としては透析毎に何度も採血を繰り返し、TDMを行っていくことが必要があることです。

参照:Oka hideaki et al. KANSEN Journal No.43(2013.7.19)

上記のこの15μg/mLというトラフのcut off 値は、一つの目安ですが、重症の患者においては20μg/mLで設定することも可能と考えます。実際に維持透析患者においては腎機能が破綻しており、それ以上に腎機能障害が進行することはないためす。また、20μg/mL以上の血中濃度であったとしても、明らかな副作用は認められず、有効性も向上させられるという報告も出ています。

参照:Evaluation of the Safety and the Effectiveness of trough Serum Vancomycin Leve1 Higher than 20μg/mL in Dialysis Patients Kenji Shigeno et al. 日病薬誌 第51巻8号(989-992)2015年

②簡易法

ランダムトラフ法でも十分に簡易的な方法と思われますが、更にこれを簡易貸した方法があります。それが週1回採血の投与方法です。これであれば、透析毎の頻回な採血を必要としてません。具体的には以下のように行います。

透析毎(ルーチン)に透析7.5~10mg/kg/回の補充投与を行う。
そして、週1回、透析日のどれかを選択し、透析に採血を行う。VCMの血中濃度(トラフ値)を測定、確認し・・・
→トラフ値:15μg/mL以下であれば、透析7.5~10mg/kg/回の投与を行う。
→トラフ値:15μg/mL以上であれば、投与なし次回の透析時にも採血を行い、上記の操作を繰り返す。

どうでしょうか?ランダムトラフ法と異なり、透析毎に頻回に採血を行わず、週1回で管理できる方法です。大きな違いは、トラフ値が15μg/mL以下であった場合のみ、その次の透析で再度採血を必要とする点であり、この違いには注意しておく必要があるでしょう。

参照:Oka hideaki et al. KANSEN Journal No.43(2013.7.19)

ここまで、透析患者におけるVCMの投与方法を紹介してきましたが、いずれにおいても各患者の状態に応じて、微調節が必要となる可能性があります。主治医、薬剤師等の医療スタッフ間で慎重に協議を行った上で、投与を行って下さい。

参考文献:
・抗菌薬TDMガイドライン バンコマイシンの項 P24~25、P.39~62
・Evaluation of the Safety and the Effectiveness of trough Serum Vancomycin Leve1 Higher than 20μg/mL in Dialysis Patients Kenji Shigeno et al. 日病薬誌 第51巻8号(989-992)2015年
・Oka hideaki et al. KANSEN Journal No.43(2013.7.19)
・Rybak M,Lomaestro B,Rotschafer JC,et al:Therapeutic monitoring of vancomycin in adult patients:a consensus review of the American Society of Health-System Pharmacists, the Infectious Diseases Society of America, and the Society of Infectious Diseases Pharmacists.Am J Health Syst Pharm.2009 Jan 1;66(1):82-98.
・Hall RG 2nd,Payne KD,Bain AM,et al:Multicenter evaluation of vancomycin dosing:emphasis on obesity.Am J Med.2008 Jun;121(6):515-8.
・Sakoulas G,Gold HS,Cohen RA,et al:Effects of prolonged vancomycin administration on methicillin-resistant Staphylococcus aureus(MRSA) in a patient with recurrent bacteraemia.J Antimicrob Chemother.2006 Apr;57(4):699-704.
・LK,Hsu DI,Quist R,et al:High-dose vancomycin therapy for methicillin-resistant Staphylococcus aureus infections:efficacy and toxicity.Arch Intern Med.2006 Oct 23;166(19):2138-44.
・日本化学療法学会:抗菌薬TDMガイドライン,杏林舎,2012.
・Barth RH,DeVincenzo N:Use of vancomycin in high-flux hemodialysis:experience with 130 courses of therapy.Kidney Int.1996 Sep;50(3):929-36.
・Pollard TA,Lampasona V,Akkerman S,et al:Vancomycin redistribution:dosing recommendations following high-flux hemodialysis.Kidney Int.1994 Jan;45(1):232-7.
・Svetitsky S,Leibovici L,Paul M:Comparative efficacy and safety of vancomycin versus teicoplanin:systematic review and meta-analysis.Antimicrob Agents Chemother.2009 Oct;53(10):4069-79.




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