免疫抑制・化学療法により発症する B 型肝炎対策について

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デノボ肝炎とは

血液悪性疾患に対する強力な化学療法中あるいは終了後に、HBs 抗原陽性あるいは HBs 抗原陰性例の一部でHBV(B型肝炎ウイルス再活性化デノボ肝炎が報告されています。HBVが再活性化し、デノボ肝炎を起こした症例は、化学療法を中止せざるを得なくなり、時には劇症肝炎を引き起こし、生命が脅かされることもあります。

実際に2013年には神戸市の病院で悪性リンパ腫の60代男性に対して化学療法を施行し、主治医が治療前からHBV再活性化に対するモニタリングを怠ったために、HBV再活性化による劇症肝炎(デノボ肝炎)を発症し、死亡に至った事例がありました。(図1)

図1 デノボ肝炎を引き起こした事例 日本経済新聞

 B型肝炎を引き起こすHBVはA型やC型の肝炎ウイルスと異なり、劇症肝炎を引き起こす非常に恐ろしい特徴があります。また、他の肝炎ウイルスはRNA型ウイルスであるのに対して、HBVはヒトと同じDNA型ウイルスであるため、完全に排除することが困難であり、長期間に渡る治療が必要になります。また、血液悪性疾患または固形癌に対する通常の化学療法(特にリツキシマブ、フルダラビンなどの抗がん剤)だけでなく、リウマチ性疾患・膠原病などの自己免疫疾患に対する免疫抑制療法ステロイド、シクロスポリン、タクロリムス、インフリキシマブなど)においても HBV 再活性化のリスクを考慮して対応する必要があります。そのため、化学療法・免疫抑制療法前にHBVキャリアおよび既往感染のスクリーニングを行うことが非常に重要です。

B型肝炎検査について

HBVのスクリーニング検査で測定される抗原や抗体には数種類ありますが、以下の項目(表1)は理解し、主治医が化学療法・免疫療法開始に測定を行っているか、適切な対処が実施できているかの確認は、看護師、薬剤師、臨床検査技師などの多職種で行う必要があります。

表1 B型肝炎ウイルス(HBV)に対するスクリーニングで測定される項目

実際にHBVのスクリーニングは以下のアルゴリズム(図2)に沿って実施し、HBVによるデノボ肝炎を予防していかなければならないことが、ガイドライン(免疫抑制・化学療法により発症するB型肝炎対策ガイドライン)にも記載されています。このアルゴリズム(図2)について解説を行います。

図2 B型肝炎ウイルス(HBV)に対するスクリーニングのアルゴリズム

★HBs抗原を測定して、HBVキャリアかどうか確認する。
陽性:HBe抗原、HBe抗体の測定、HBV DNA定量を行い、核酸アナログ製剤の投与を検討する。
(「免疫抑制・化学療法により発症するB型肝炎対策ガイドライン」においては、肝臓専門医にコンサルト することが推奨されている)
陰性:HBc抗体またはHBs抗体を測定して、既往感染者かどうか確認する
抗体陽性であれば、HBV DNA定量を行う。(ワクチン接種歴が明らかである場合を除く
DNA量1.3 Log IU/mL以上であれば、劇症化する可能性があり、直ちに核酸アナログ
 (HBVに対する抗ウイルス薬)
の投与を行う。一度の検査でDNAが検出されなくても、
 治療を数回繰り返した後にDNAが検出される(HBV再活性化)
 可能性も十分にあるため、定期的にHBV -DNA定量を行う必要がある。
抗体陰性であれば通常の対応。

最も注意が必要なのは、 です。HBc抗体またはHBs抗体陽性DNAが検出されなくても、化学療法・免疫抑制療法を施行後に、後からDNA量が上昇する(HBV再活性化)可能性があります。その場合は通常のB型肝炎に比べて、劇症化するリスクが高く、劇症化した場合は極めて予後不良と考えられています。そのため、劇症化する前に定期的に検査を行い、DNAが検出された際には速やかに核酸アナログ(HBVに対する抗ウイルス薬)を投与して、劇症化を防ぐことが必要です。

核酸アナログ(抗ウイルス薬)投与の場合(肝臓専門医にコンサルトすることが推奨されている)

薬剤耐性の少ない以下の核酸アナログ(HBVに対する抗ウイルス薬)の使用が推奨されています。(表2)

表2 HBVの再活性化(デノボ肝炎)に使用可能な核酸アナログ製剤(HBVに対する抗ウイルス薬)

●終了基準(肝臓専門医と相談した上で行う)
スクリーニング時にHBc抗体陽性またはHBs抗体陽性だった症例では、
(1)免疫抑制・化学療法終了後、少なくとも12か月間は投与を継続すること。
(2)この継続期間中にALTが正常化していること。(ただしHBV以外にALT異常の原因がある場合は除く)
(3)この継続期間中にHBV DNAが持続陰性化していること。
(4)HBs抗原およびHBコア関連抗原も持続陰性化することが望ましい。

●HBV DNA量のモニタリング
①通常の化学療法および免疫作用を有する分子標的治療薬を併用する場合:
頻度は少ないが、HBV再活性化のリスクがある。HBV DNA量のモニタリングは1~3か月ごとを目安とし、治療内容を考慮して間隔および期間を検討する。血液悪性疾患においては慎重な対応が望ましい。
②副腎皮質ステロイド薬、免疫抑制薬、免疫抑制作用あるいは免疫修飾作用を有する分子標的治療薬による免疫抑制療法の場合:
HBV再活性化のリスクがある。免疫抑制療法では、治療開始後および治療内容の変更後(中止を含む)、少なくとも6か月間は、月1回のHBV DNA量のモニタリングが望ましい。

参考文献:
・免疫抑制・化学療法により発症する B 型肝炎対策ガイドライン
・日本経済新聞
・各薬剤 添付文書




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