外来がん治療認定薬剤師 症例審査を受かるための症例の記載方法

A 外来がん治療認定&専門薬剤師

2021年8 月より専門医療機関連携薬局の薬局機能の認定制度が開始され、外来がん治療認定薬剤師(APACC)から外来がん治療専門薬剤師(BPACC)へのランクアップが注目されています。近年、外来でのがん化学療法が促進される中で、外来がん化学療法に精通できる薬剤師が求められています。そして、外来がん治療専門薬剤師(BPACC)を目指す上でも、まず、外来がん治療認定薬剤師(APACC)を取得する必要があります。
本記事ではAPACCを取得するために、最も重要であり、難関である、介入事例の記載について注意すべきポイント、不合格者の誤ったポイント等について説明しています。

最後には「がん治療における薬学的ケアの実践ケースファイル」も紹介しておりますので、併せて最後までご覧下さい。

試験の合格率

合格率表を見て頂けると、お分かりになるかと思いますが、合格率は2020年前後で40〜43%程度となっています。特に症例審査の段階で通過率が60%程度ですので、40%近い受験者が不合格となっております。また、筆記試験も通過率が60%程度ですので、40%近い受験者が不合格となっております。

外来がん治療認定薬剤師(APACC)新規認定審査結果の年次比較

  2019年 2020年 2021年 2022年
申請者数 368 412

 審査中止

683
書類・事例通過者 225 255 442
書類・事例通過率
(書類通過者/申請者)
61.10% 61.90% 64.70%
筆記試験受験者(実数) 221 402 676
筆記試験合格者 156 248 411
筆記試験合格率
(合格者/受験者)

審査方法
変更前のため、算出できず

61.70% 60.70%
面接試験受験者 160 178 307
面接試験合格者 150 173 297
面接試験合格率
(合格者/受験者)
93.80% 97.20% 96.70%
合格率
(面接試験合格者/申請者)
40.80% 42.00% 43.50%

※2021年度は新型コロナウイルス感染症の影響により審査が中止となった。
 そのため、2022年度より筆記試験はCBT形式、面接試験はZOOMによる
 オンライン形式に変更となった。

そのため、特に症例作成については早めの準備をオススメしており、日頃の日常業務からエビデンスを持った介入、処方提案等を心がけて頂けたらと思います。
そこで、本ページでは、外来がん治療認定薬剤師の新規申請試験における介入事例(10例)の記載について、作成時のポイント、注意点、評価されるポイントまで解説をしていきます。
筆記試験の対策、練習問題集についてはこちらをご覧下さい。

介入事例の体裁

・介入事例の病態(患者情報、治療歴、各種必要項目)
・問題点の提示
・実際の介入内容(根拠まで提示することが望ましい)
・介入による変化(結果)

介入事例の体裁としては大きく上記のポイントを意識するように、時系列に沿って記載をしていきましょう。(医療行為は時系列に従うため、絶対に時系列を逆行する記載はしないように!!)
処方提案から意思決定のプロセスが明確であり、処方提案事項の根拠となる文献や資料等が簡潔に記載されていることが重要です。また出来るだけ標準的でない治療への介入事例は避けることが望ましいでしょう。
では、実際に合格された方の症例を使って、ポイントを解説していきましょう。(これが正解という訳ではありませんでの、ご注意下さい!!

実際の合格事例 CPT-11+CDDP(胃神経内分泌がん)

介入事例の病態(患者情報、治療歴、各種必要項目)

※個人情報に配慮し、編集を行っております。実際の症例とは異なります。(フィクション)

●患者背景:小細胞肺がん患者、多発リンパ節転移、肝転移、UGT1A1変異:-、PS:1、身長:★cm、体重:★kg、体表面積:★m2

問題点の提示

●介入を要する問題点:①3コース目までは入院で実施し、4コース目より外来通院で施行した。4コース目開始前に患者よりDay1の2種類の抗がん剤を投与した後は嘔気で数日食事がほとんど摂取できなくなる(悪心:Grade2)と訴えがあった。②4コース目Day15に再度面談した際に、Day1から悪心は以前同様で辛かったと訴えがあった。

実際の介入内容(根拠まで提示) 及び 介入による変化(結果)

●介入内容・結果:①制吐薬として、Day1にホスアプレピタント150mg、パロノセトロン0.75mg、デキサメタゾン9.9mgを点滴静注し、Day2からデキサメタゾン(DEX)8mg/日の内服を3日間行っていた。しかし、ホスアプレピタントとDEXの相互作用の影響は2日目までとされており、Day3~4のDEX内服の16mg/日への増量を主治医に提案し、実施された(参照:制吐薬適正使用ガイドライン)。②4コース目Day15の面談の際にDEXを増量したが、Day1から数日間は以前同様に嘔気が強かった(Grade2)と訴えがあった。糖尿病の既往がないことを確認し、主治医にDEX内服に加えてオランザピン5mg内服(Day1より5日間)の追加を提案し、実施された(参照:制吐薬適正使用ガイドライン)。オランザピン追加後、Day8に経過を患者に確認した。悪心は軽減し、食事も前回より摂取できた(Grade1)と返答が得られた。血糖上昇も認めなかった。

改めて俯瞰してみると以下のような全体像になります。

各症例において、少なくとも一つのエピソードを完結させることが望ましいと思います。
合格症例を見てきた側の意見としては、ほとんどの合格者は約2つほどエピソードを盛り込まれている方が多い印象があります。

好ましくない書き方

実際に不合格になられた受験者の方々に多いパターンが以下の通りとなります。

・ほとんどが経過のみであり、薬学的介入がほとんどない事例
・処方提案後の評価やモニタリングができていない事例
・事例間でのコピー&ペーストが目立つ
・箇条書き
・個人情報の記載(患者IDなど)
・がんや合併症の診断名の記載が不正確
・ステロイド外用薬の記載:ベタメタゾン軟膏のような略は❌ 
 (実際に使用された薬剤が不明になる)
・半分以上が疼痛緩和に関する事例
 (疼痛緩和の事例は2例まで)
・介入内容のワンパターン化が認められる。
 (3〜5例/10例が同じがん種、同じレジメン、ほとんどが高血圧に対しての介入、
 ほとんどがinfusion reactionに対する介入など…)

その他の注意点

・原則として外来患者における事例
※毎年、病院薬剤師の方で入院の症例を入れられる方が数名いらっしゃいます。
・誤字・脱字・変換ミスに注意
・がん種毎に並べられて提出
・文字数:360字以上、600字い
・治験、臨床試験の事例は不適切 など・・・

アドバイスポイント

ここで、アドバイスポイントがあります。

外来がん治療認定薬剤師の試験の様式上、提出は10例しか提示できません!!

「提出事例は10例しかないの!?少な~い!わ~い!やった!」ではないのです!
この10例で自分がどれだけ抗がん剤・分子標的薬・免疫チェックポイント阻害薬等の用法用量、副作用に対する支持療法、相互作用、患者サポート能力、医師への提案力等があるかをアピールしなければならないのです・・・ そのため、各レジメンにおいて、代表的な副作用に対して、かつ可能な限り多くのパターンの対応することができた介入症例を提出することが合格へのカギになるかと思います。

CTCAEを用いたGrade評価を徹底し、適正使用ガイド、添付文書、ガイドライン等を参照し、根拠ある介入を実施した事例を用いてアピールすることを心がけましょう。

・日々の薬剤師業務で患者さんの状態をアセスメントし、根拠をもって介入しましょう。
・情報の整理を行いましょう。
・第三者(審査者)が見てもわかりやすく記載しましょう。
(症例間のがん種で並べ、各症例で時系列も整理し、順番通りに記載しましょう。)
・面接試験では介入によるメリットについて、質疑があります。
 自らの介入によって、医師が全く無反応であった症例やBAD ENDに至ってしまった
 症例は、OUTということではありませんが、極力避けることが望ましいでしょう。
・提出する前に上司等の同僚に事前に査読してもらいましょう。

査読を頼むことができない、頼みづらい場合は、ボアーファーマシーラボの査読コンサルティングを是非ご利用下さい。下記のページより、詳細な内容をご確認頂けます。

審査方法

審査方法としては、複数の資格所有者が査読を行います。合否判定をする際には、下記の基準があります。

OK:
患者への薬学的介入を行い、その根拠、提案の採否、転帰、介入結果の評価等のいずれもが適切に記載できている、もしくは読み取れる事例
NG:
経過説明のみ、不適切までではないが、不備ありなど
OUT:
標準治療ではない 
入院の事例 
医療として逸脱 
疼痛緩和のみの事例が2例以上
 
NGが3事例以上 ⇒ 不合格
OUTが1事例以上 ⇒ 不合格

極力、OKの事例で10例揃えるように心がけましょう。

評価ポイント

コメント分類評価ポイントしては下記の図の様なポイントがあり、査読者(審査者)が各項目に対してコメントをしていきます。よろしければ、下記の部分だけドラッグで選択し、プリントアウトし、チェック表としてお使い頂ければと思います。

①情報の不足
②副作用評価
③介入
④結果・転帰
⑤全体
⑥基本記載事項の不備
⑦記載留意事項不順守
⑧文の作法・体裁

①情報の不足

項目
治療方針の判断に必要な情報を記載した。  
PS・身長・体重・バイタルサインを記載した。  
検査データ(血糖値・HbA1c・採血データなど)を記載した。  
重要な病理情報を記載した。(HER2、EGFR変異、RAS変異など)  
減量した治療であれば、理由を記載している。  
間隔を変更した治療であれば理由を記載している。  
重要な併存疾患がある場合、併用薬を十分に把握している。  

②副作用評価

項目
副作用評価についての情報収集は十分である。  
副作用評価は適切である。  
CTCAEによるGrade評価を行い、前後を明確にしている。  

③介入

項目
ガイドラインに準拠した薬剤選択をした。  
複数の事例間で提案内容や介入内容は類似していない。  
適応外の薬を提案した場合、根拠も記載した。  
適応外の薬を提案した場合、患者にも適切な説明をした。  
提案が妥当かどうか考察した。  
どのような問題点があり、どの程度起こったのかを記載した。  
処方提案から意思決定のプロセスが明確である。  
提案事項の根拠となる文献や資料を簡潔に記載した。  

④結果・転帰

項目
処方提案に対する医師の見解を記載した。  
処方提案が採択されなかった場合、その理由を記載し、どのような対応を
したかを記載した。
 
提案後の副作用のモニタリングの記載をした。  
提案後の患者の状態変化の記載をした。  
提案によりどのように変化(改善)したか記載した。  
処方提案した場合、患者の転帰を記載した。  
日常業務では常時、情報得て、アセスメントし、根拠をもって介入すること、結果・転帰を確認することを意識しましょう!

⑤全体

項目
副作用対策に関わる施設基準は標準的である。  
カンファレンスでの決定事項は標準的である。  
比較試験実施中の試験治療を実施診療で行ったものではない。  
PDになった後に漠然と治療を続行していない。  
患者の不安の聴取・傾聴・またその解決策になる情報提供のみではない。  
患者の経過の記載のみにならず、介入を記載している。  
検査追加の提案のみではない。  
時事照会事例の単なる介入ではない。  
事例に問題点がなく、現状が適切であることの説明のみではない。  

⑥基本記載事項の不備

項目
標準治療である。  
適切な投与量である。  
用法用量の記載は正しい。  
スケジュールの記載は正しい。  
抗がん薬の用量設計を体表面積(また/body、/kg)で正確に記載した。  

⑦記載留意事項不順守 および ⑧文の作法・体裁

項目
10例の体裁は全て整っている。  
10例をがん種ごとに並べられている。  
事例間でコピー&ペーストはない。  
誤記はない。  
不適切な表現はない。  
文字数は360字以上600字以内である。  
他者が読んでも伝わる文章。(他者に確認してもらった。)  
箇条書きではない。  
個人情報の記載はない。  
がん・合併症の診断名は正確である。  
がんに影響を及ぼす合併症がある場合、それに関しての経過を記載した。  
薬剤名・規格は正確である。  
同施設間での流用ではない。  
入院の症例ではない。  

不合格になった症例 XELOX(大腸がん)

※個人情報に配慮し、編集を行っております。実際の症例とは異なります。(フィクション)

StageⅡPS1、身長★cm、体重★kg、体表面積★㎡。大腸がん術後の治療に対してCAPが初めて処方となった患者。CAP処方の2週間後に電話相談実施。目がしょぼしょぼして涙が出ること、便秘がつらくプルゼニド錠を毎日2錠服用していた。特に目の違和感が強く、我慢できず市販の目薬を使用していた。そこで、主治医にこの状況を報告。目の対処としてレボフロキサシン点眼液1.5%の追加、便秘対処として下剤増量について検討を依頼した。結果、便秘についてはプルゼニド錠2錠のままで様子を見ることとなったが、目の症状に対してはレボフロキサシン点眼液1.5%が追加となった。その後、市販薬を止めてレボフロキサシン点眼液1.5%に切り替えたことで目の違和感、涙目の症状は落ち着いた。また、7クール目には血圧が160mmHg近くまで上昇しアムロジピン錠5mgが1日1回朝食後1錠の指示で追加となった。その後、電話相談を実施。徐脈を気にしており、アムロジピン錠5mgを全く服用していないことが発覚。また、家庭血圧130/70mmHgと病院の測定値よりも20mmHg以上低いことから主治医に家庭血圧の情報を提供。服用状況から追加となった降圧剤の中止または頓服への用法変更を提案した。その後、用法は1日1回朝食後のままと変わりなかったが、調節服用可能と主治医から説明があり、血圧が下がりすぎないよう薬物療法にも関与できた。

この症例の評価としては、いくつか気になるポイントがあります。

・流涙症状、目の違和感に対して、
 レボフロキサシン点眼液を提案した根拠はあったのか?
 眼科受診は促されていたのか?
・便秘はそもそも化学療法の影響があったのか?
 その点について考察がされていない。
 CTCAE評価もされていない。
・血圧上昇とあるが、こちらも化学療法の影響があったのか?
 その点について考察がされていない。
 CTCAE評価もされていない。
・XELOX(カペシタビン+オキサリプラチン)のレジメンで頻発する副作用
(手足症候群、嘔気、嘔吐、下痢、末梢神経障害)を理解しているのか?

このようなポイントから、この症例がOUTという訳ではありませんが、外来におけるがん治療専門の薬剤師の認定になりますので、専門性を鑑み、介入に対するレベルが目標に達していない印象が見て取れるかと思います。

合格になった症例

症例の記載方法は薬剤師の先生方の各個人で異なってきますが、記載様式は10例で揃えましょう。そして、必ず介入を要する問題点介入内容その結果を明確に記載するように心掛けましょう。今回、例に挙げた合格症例(CPT-11+CDDP)はあえて項目化していますが、必ず項目化する必要性はありません。他に10例の記載様式を整えられるのであれば、基本的には自由に記載可能です。また、介入を行う際には必ず根拠のある情報をもとに行ってください。これがしっかりとできれば、確実に症例審査を合格できます!

ぜひ、外来がん治療に深く踏み込んだ介入を行ってみて下さい!

がん治療における薬学的ケアの実践ケースファイル

ここまで、事例審査におけるポイントを解析してきましたが、やっぱり実際に記載された介入事例を見てみるのが一番勉強になると思います。もしよろしければ、「がん治療における薬学的ケアの実践ケースファイル」という薬剤師の介入事例を創造した書籍がございますので、ぜひ一度はご覧になってみて下さい。

がん治療における薬学的ケアの実践ケースファイル|ボアラ@外来がん治療専門薬剤師の端くれ|note
「がん治療において薬剤師はどのような介入を行っているのか?」 そんな思い悩む疑問をテーマにして、頻度が高く、ごくごく臨床上のがん化学療法でありふれた薬剤師の介入ケースを一冊にまとめてみました。がん治療を受けられる患者の皆様が「少しでも気持ちよく、安全に治療を受けて頂くこと」を目的に、日々のがん治療に携われる薬剤師の先生...
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【ボアラ】
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