「薬剤師国保」をご存じでしょうか?正式名称を薬剤師国民健康保険(以下、薬剤師国保)といいます。これから結婚、出産を希望・予定している女性薬剤師の方は、転職先で加入する健康保険が「薬剤師国保か?それとも、被用者健康保険(協会けんぽ・組合健保など)か?」必ず確認するようにして下さい。
「こんなはずじゃなかったのに!転職先で薬剤師国保に加入し、大損した!」
「出産手当金が支給されなかった!」
「育児休業等期中の保険料が免除されなかった!」
というような出産経験のある女性薬剤師の方の意見も多くある中で、もし転職前で、まだ薬剤師国保をご存じなければ、本記事で必ず理解するようにしておいて下さい。
薬剤師国保とは?被用者健康保険との違いは?
日本では「国民皆保険制度」を採用しており、国内に住所がある人は年齢や国籍にかかわらず、複数存在する公的医療保険(健康保険)のいずれかへの加入が義務付けられています。
通常、薬剤師が加入する健康保険の種類は、以下の2つです。
✅ 薬剤師国民健康保険(薬剤師国保)
✅ 被用者健康保険(協会けんぽ・組合健保など)
※「社会保険」(通称:社保)とは一般的に、健康保険・厚生年金保険・介護保険・雇用保険・労災保険の総称ですが、健康保険・厚生年金保険の2つを指して「社会保険」と呼ぶこともあります。
薬剤師国保(薬剤師国民健康保険)
各都道府県薬剤師会の会員が経営する、従業員5人未満の個人事業所(薬局)などに勤務する薬剤師が加入できる国民健康保険になります。
加入条件は、運営が都道府県単位であるため、組合によって加入条件は異なります。基本的に、各組合で定めた範囲の居住者のみ加入可能です。法人の事業所や従業員5人以上の場合は、協会けんぽなどの被用者健康保険への加入が必須となり、薬剤師国保には加入することができません。ただし、すでに加入済みの薬局等で従業員が増えた場合などは、承認を受けて残留することも可能なので、実際には従業員5人以上で薬剤師国保に加入している薬局等も存在します。
また、国民健康保険は世帯単位での適用となるため、扶養家族を含め世帯員全員 (他の被用者保険加入者は除く)の加入が原則となります。そのため、人数が多いと負担が大きくなってしまいます。
被用者健康保険(協会けんぽ・組合健保など)
法人の事業所(薬局)や従業員5人以上の事業所(薬局)に勤務する薬剤師が加入できる健康保険になります。
※協会けんぽ:
全国健康保険協会が運営。主に中小企業の従業員が加入する。
※組合健保:
常時700人以上の従業員が勤務する企業が自社で設立した健保組合が運営。大企業または、そのグループ会社・子会社の従業員が加入する。
薬剤師国保、被用者健康保険の保険料はどれくらいちがう?
薬剤師国保、被用者健康保険の一つのちがいはその保険料です。薬剤師国保では、保険料は「定額」ですが、被用者健康保険は「収入(給与額)によって変動」してきます。
✅薬剤師国保は「定額」
✅被用者健康保険は「収入(給与額)によって変動」
薬剤師国保の保険料例(月額)【定額】
薬剤師国保の保険料は月々でどれくらいなのでしょうか?下記の表(テーブル)を見ると、40歳未満の薬剤師(従業員)として勤務していれば、【定額】25,000円/月になります。これは、高いのでしょうか?この後、この額が被用者健康保険と比べて高いのか、比べて行きましょう。
保険料 | 後期高齢者 支援金 |
合計 | 介護保険料 | 介護該当者 計 (40歳~64歳) |
|
事業主組合員 | 26,000円 | 3,500円 | 29,500円 | 4,800円 | 34,300円 |
従業員(薬剤師) | 21,500円 | 3,500円 | 25,000円 | 4,800円 | 29,800円 |
従業員(その他) | 16,000円 | 3,500円 | 19,500円 | 4,800円 | 24,300円 |
家 族 | 9,000円 | 3,500円 | 12,500円 | 4,800円 | 17,300円 |
後期高齢者組合員 | 2,500円 | 2,500円 |
※【東京都薬剤師国民健康保険組合(平成30年4月1日現在)】(単位:円)
※後期高齢者支援金とは、平成20年度から開始された「後期高齢者医療制度」を支援するための保険料です。
※介護保険料は、40歳から64歳の方が対象です。65歳以上の方は、年金から天引き又は居住地の区市町村に納付することになります。
被用者健康保険の保険料例(月額)【収入(給与額)によって変動】
被用者健康保険の保険料は月々、収入(給与額)によって変動してきます。例えば、40歳未満で標準報酬月額400,000円の場合は、健康保険料の本人負担額は20,295円/月になります。※健康保険料の半分は会社が納めることになっているため、折半額(健康保険料20,295円)というのが実際に支払う金額となります。詳細は下記の一覧からご確認頂けます。
薬剤師国保、被用者健康保険の保険料の比較
モデルA
ここまでで、薬剤師国保と被用者健康保険の保険料を見てきました。ではこの2つを比較してみましょう。比較するモデルAとしては、40歳未満の独身男性薬剤師、月額の収入(給与額)は400,000円と仮定します(これでもかなり高給取りと思うのは私だけでしょうか・・・💧)。
✅薬剤師国保 保険料/月:25,000円/月 ※「定額」
✅被用者健康保険 保険料/月:20,295円/月 ※「収入(給与額)によって変動」
※前項の健康保険・厚生年金保険の保険料額表を見るをご覧下さい。
40歳未満の独身男性薬剤師、月額の収入(給与額)は400,000円のモデルAでは、薬剤師国保の方が保険料は高くなってしまうことがわかりますね。さらにここに、扶養家族がいれば、薬剤師国保の場合はさらに扶養家族分(他の被用者保険加入者は除く)の保険料の負担がのしかかってきます。
しかし、薬剤師国保が定額であるのと対照的に、被用者健康保険の保険料は月額の収入(給与額)が上がれば、比例して上がっていくというデメリットも存在します。
モデルB
では、モデルの年収を上げてみましょう。40歳未満の独身男性薬剤師、月額の収入(給与額)は600,000円のモデルBでは保険料はどうなるでしょうか?一般の薬剤師からしたら、なかなか非現実的なモデルですが、実際に見てみましょう。
✅薬剤師国保 保険料/月:25,000円/月 ※「定額」
✅被用者健康保険 保険料/月:29,205円/月 ※「収入(給与額)によって変動」
※前項の健康保険・厚生年金保険の保険料額表を見るをご覧下さい。
どうでしょうか?薬剤師国保は定額の25,000円なので、変動はありません。これに伴い次は、収入(給与額)によって変動する被用者健康保険の保険料の方が高くなってしまうことがわかりましたね。
ここまでで、何が言いたいかというと・・・
✅薬剤師国保 「定額」のため、高収入になれば被用者保険よりオトク!
✅被用者健康保険 「収入により変動」のため、低~中収入で薬剤師国保よりオトク!
ということになります。普通の一般薬剤師からしたら、月額40,000円以上の給与を支給されている薬剤師は少ないため、保険料としては被用者健康保険の方がオトクと考えられます。逆に管理薬剤師や役職をもつ薬剤師で高収入の場合は、保険料が定額の薬剤師国保の方がオトクということになります(薬剤師国保がオトクなのはかなり高収入の少数派ですね・・・💧)。
薬剤師国保のメリット・デメリット
メリット
保険料が定額収入(給与額)によっては被用者健康保険よりも保険料が少なくなる。
デメリット
低~中収入の一般薬剤師からしたら、そもそもの定額保険料が被用者保険より高く設定されている。また、扶養家族の保険料も支払い義務が発生する。国民健康保険は世帯単位での適用となるため、扶養家族を含め世帯員全員 (他の被用者保険加入者は除く)の加入が原則。人数が多いと負担が大きくなる。
被用者健康保険のメリット・デメリット
メリット
健康保険と厚生年金の保険料が半額保険料は事業主と被保険者が折半で負担。
扶養家族は「被扶養者」となるため、保険料の支払いはない。
注意:任意継続被保険者の保険料は、全額本人負担。
デメリット
保険料が収入(給与額)によって変動する。収入(給与額)が多くなると薬剤師国保よりも保険料が高くなる。
ここまでみても、個人的には、一般薬剤師からすれば、圧倒的に被用者健康保険の方がオトクに感じます。薬剤師国保でオトクになる高収入の立場になるには、なかなか難しいと思います。
その他のちがい
ここまで保険料のちがいについて見てきましたが、保険料の他にも、薬剤師国保と被用者健康保険で異なる点が多々あります。
薬剤師国保 | 被用者健康保険 | |
傷病手当金 | × | ○ |
病気やケガで仕事を休んだ際、協力けんぽでは傷病手当金が給付されます。 | ||
出産育児一時金 | ○ | ○ |
薬剤師国保と協力けんぽの両方で、全ての妊娠4ヶ月以上の出産で給付されます。 | ||
出産手当金 | × | ○ |
出産で仕事を休んだ際、協力けんぽでは出産手当金が給付されます。 | ||
育児休業等期間中 の保険料免除 |
× | ○ |
育児休業などの期間、協力けんぽでは保険料が免除されます。 | ||
賞与に関わる 特別保険料の徴収 |
× | ○ |
ボーナスが出ても、薬剤師国保では保険料が追加徴収されません。 | ||
保険の任意継続 | × | ○ |
退職した場合、協力けんぽでは2年間のみ任意で継続加入が可能です。 薬剤師国保では、退職と同時に他の保険に加入する必要が出てきます。 |
特に結婚、出産を希望・予定している女性薬剤師が注意すべきは、「出産育児一時金と出産手当金と育児休業等期中の保険料の免除」です。この「出産育児一時金と出産手当金と育児休業等期中の保険料の免除」については、この次の項で詳しく解説していきます。
女性薬剤師の悲痛な叫び
【女性薬剤師の悲痛な叫び①】出産手当金とは?薬剤師国保では受け取れない!
「出産手当金」というものをご存じでしょうか?
現在、被用者健康保険で正社員とし勤務しており、月収200,000円程度であった場合、出産すれば「出産手当金」は435,806円ほど支給されます。そして、「出産育児一時金」は一律に420,000円が併せて支給されます。しかし、薬剤師国保の場合、「出産育児一時金」だけは平等に支給されますが、「出産手当金」は支給されないのです。
出産手当金と出産育児一時金
ここで「出産手当金」と「出産育児一時金」と2つの似たワードが出てきましたね。2つは名前はよく似ていますが、別々の給付金であり、しっかり区別して、理解しておいて下さい。解説は以下の通りです。
項目 | 出産手当金 | 出産育児一時金 |
---|---|---|
支給 対象者 |
出産日以前42日(双子以上の多胎である 場合は出産日以前98日)から出産の翌日 以後56日までの範囲に会社を休んだ健康 保険加入者 |
妊娠4か月(85日)以上で出産する健康保険 加入者もしくは配偶者の健康保険の被扶養者 |
金額 | 標準報酬日額の3分の2に相当する金額 | 通常、赤ちゃん1人につき42万円 |
手続き | 会社または全国健康保険協会 (協会けんぽ)への申請書の提出 (勤務実態や給与について勤務先 からの証明が必要) |
病院への申請書提出・健康保険証提示 (退職した勤務先の健康保険であっても、 被保険者期間が1年以上あり、退職後6ヵ月 以内の出産であれば支給可能) |
出産予定の女性薬剤師 モデルC
では実際に出産予定の女性薬剤師のモデルCで、薬剤師国保、被用者健康保険で支給される金額がどれくら変わってくるのか比較してみましょう。この出産予定の女性薬剤師のモデルCは月々200,000円の月収(給与額)で1児の出産予定であったと過程しましょう。
薬剤師国保の加入している場合
支給されるのは、残念ながら、「出産育児一時金のみ」となります。従い、出産時に支給される額は、420,000円となります。「出産手当金」は支給されません。
支給額 「出産育児一時金のみ」(420,000円)=420,000円
被用者健康保険に加入している場合
支給されるのは、「出産手当金」および「出産育児一時金」の両方が支給されます。従って、「出産手当金」が435,806円、「出産育児一時金」が420,000円、その合計として、855,806円が支給されることになります。
支給額 「出産手当金」(435,806円)+「出産育児一時金」(420,000円) =855,806円
どうでしょうか?月収が200,000円であったとしても、薬剤師国保に加入しているだけで(被用者健康保険に加入できていないだけで)、400,000円以上の不利益が生じることになるのです。特に、結婚し、正社員からパート等の非正規社員に移行した場合、これだけの金額差は経済的に厳しいでしょう。
【女性薬剤師の悲痛な叫び②】薬剤師国保では育児休業等期中の保険料(健康保険・厚生年金保険)が免除されない!
薬剤師国保では、育児休業中にもちろん育休給付金は給付されますが、その間も保険料を払い続けなければならないというデメリットが存在します。被用者健康保険では、育児休業中は保険料の支払いが免除されますが、薬剤師国保ではずっとその支払いが続いてしまうことになるのです。念願の出産が叶ったのに、家庭の経済状況が圧迫されてしまう状況に陥ってしまう可能性があります。
薬剤師国保と被用者健康保険でどちらが得をする?
一概に「コッチだ!」とお答えすることはできませんが、通常の出産予定の女性薬剤師であれば、被用者健康保険を完備する施設に転職されることをオススメします。転職先で薬剤師国保に加入してしまうと、「出産手当金とは?薬剤師国保では受け取れない!」、「薬剤師国保では育児休業等期中の保険料(健康保険・厚生年金保険)が免除されない!」という悲劇が起こってしまいます。
被用者健康保険の種類は勤務先によって異なるため、転職の際は事前に転職エージェントへの相談をオススメします。必ず加入する保険についてご相談下さい。
Q1 すでに薬剤師国保に加入してしまい、妊娠・出産している場合はどうしたらいい?
残念ながら、今回の妊娠・出産で、出産手当金や育児休業等期中の保険料(健康保険・厚生年金保険)の免除はあきらめざる終えないでしょう。数年後に次ぎの出産を希望する予定があれば、育休給付金の支給を終えるタイミングでの転職をオススメします。
ママ向けキャリア転職支援サービス(ママキャリ)
「ママ向けキャリア転職支援サービス(ママキャリ)」をご存知でしょうか。出産を機に退職する女性は約6割と言われています。ママキャリは、「仕事と育児の両立が難しい」という課題をアドバイザーがサポートしてくれるサービスになっています。「薬剤師専門」という訳ではありませんが、気になる方はご覧になって下さい。
Q2 悪阻(つわり)がひどい時、何か保証はないの?
悪阻(つわり)がひどい妊婦さんは本当にしんどいですよね。「なるべく吐かないように!」・・・とか不可能なレベルですよね。「ちょっと座って楽にしてて!」とか言われても「寝ときたい!」ですよね。もはや、出勤するのが困難になってくると思います。そんな時に、被用者健康保険に加入していれば、傷病休暇や傷病手当金を申請できます。つらいときは、ぜひ活用してください。
しかし・・・「薬剤師国保では傷病手当金は支給されません!」本当に残念なことですが、薬剤師国保に加入してしまっている場合、悪阻(つわり)がひどくなっても傷病手当金は受給することができないのです。
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